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長崎地方裁判所 昭和57年(ヨ)53号 決定 1982年10月23日

債権者 林田照子

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 熊谷悟郎

債務者 学校法人 玉木女子学園

右代表者理事 玉木ますみ

右訴訟代理人弁護士 山田正彦

同 嶺亨祐

右訴訟復代理人弁護士 國弘達夫

主文

一  債務者は、債権者ら各自に対し、金四八万円及び昭和五七年一〇月以降第一審の本案判決言渡しに至るまで毎月二〇日限り月額八万円の割合による金員を各仮に支払え。

二  債権者らのその余の仮処分申請はこれを却下する。

三  申請費用は債務者の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

1  債務者は、債権者らを、昭和五七年三月三一日以降債務者の経営する玉木女子高等学校被服科教員として取扱わなければならない。

2  債務者は、昭和五七年三月以降本案判決確定に至るまで毎月二〇日限り一か月当り債権者林田照子に対し、金一二万八一三三円、債権者松山恵子に対し金一二万五八八三円、債権者岩田尚子に対し金一二万一三八三円の割合による金員を各仮に支払え。

二  申請の趣旨に対する答弁

1  本件仮処分申請を却下する。

2  申請費用は債権者の負担とする。

第二当事者の主張

申請の理由の概要は別紙(一)に、これに対する認否ならびに債務者の主張の概要は別紙(二)に各記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一  申請理由一、三、四の各事実及び債権者らに授与された高等学校助教諭免許状(以下、単に臨時免許状という)は、教育職員免許法(以下、単に免許法という)九条二項によって、有効期間が授与の時から三年、即ち昭和五七年三月三一日迄であることは当事者間に争いがない。

二  そこで、右免許状の有効期間満了にあたって債務者が債権者らの臨時免許状の再出願に積極的に協力する義務があるかどうか検討する。

免許法は、普通免許状を本来の免許状とし、取得要件のゆるやかな臨時免許状をあくまでも補充的なものとする一方、助教諭が最低在職年数五年間を超えて(最高一一年)勤務した場合には在職年数に応じ普通免許取得に必要な単位数を一定限度まで免除することとし助教諭に普通免許取得の途を開いている(免許法五条三項、六条二項別表第三)、さらに疎明資料によると、臨時免許状所持者が通信教育により学士の称号を得てこれを基礎に三年以内に普通免許状を取得することは事実上不可能であることが認められるから、助教諭が普通免許状を取得するためにはどうしても免許状の更新が絶対に必要となるのであって、債務者において右免許状の更新に協力する義務がないというのでは、助教諭の地位は極めて不安定となりその資質の向上を阻害する結果ともなる。

したがって、債務者学園は債権者らの臨時免許状の有効期間満了にあたり特に右協力に応じられない合理的な理由がある場合を除きその再申請手続に積極的に協力する義務があると解される。

三  債務者は債権者らを昭和五四年四月一日付で採用するにあたって、臨時免許状の有効期間は三年間であり、債務者学園の事情としても学園短大卒業者の職場確保が必要であるから右有効期間三年間だけの採用であり、右期間満了後は退職することの条件を付したと主張するが、前述のとおり免許法が助教諭に普通免許状を取得して教諭になるための途を開いている趣旨からしても採用にあたって前記のような条件を付することは妥当性を欠くというべきであるし、債権者らが右条件を承諾していたと認めるに足る疎明もない。

四  次に債務者は、債権者らには普通免許取得の意思が全くないと主張する。

債権者らが通信教育を受講していないことは当事者間に争いないところであるが、そのことから直ちに普通免許取得の意思がないものと推認することは早計であるし、債権者らが債務者学園に対し「三年間も勤めない、そのうち適当な人を見付けて結婚し学校をやめる、通信教育は受けない」旨述べていたとの事実は債権者らの各陳述書に照らしてたやすく認めることはできない。

五  次に、債務者は債権者らの勤務実績が不良であると主張し、その根拠として「制服問題」、「カーテン問題」等々をあげている。

疎明資料によると、債務者学園では新制高校発足以来被服科一年生に冬制服の縫製を教材として用いることが行われてきたが、債権者らは、右教材が生徒の能力に見合うものでなく、そのため生徒にも教師である債権者らにも重い負担になると主張し、昭和五五年六月以降機会あるごとに右学園側の教科指導計画を批判し続けてきたことが認められる。これに対し債務者学園は債権者らの右行動は自らの指導力不足、研究・努力不足を取り繕う方便に過ぎないとして教員適格性の欠如に結びつけている。債権者らの右行動をどのように評価すべきか問題のあるところであるが、疎明資料によると「制服問題」、「カーテン問題」等々を含め債権者らにもそれなりの理由があることが窺えたやすく教員適格性の欠如に結びつけることには躊躇する。

そうすると、結局、免許状再申請に協力を拒否する合理的な理由があることの疎明が十分でないといわざるを得ない。

六  ところで、債務者は債権者らの有する臨時免許状が期間満了によって失効した以上、債権者らは教員としての資格を喪失するとともに債権者らと債務者間の雇傭契約関係も消滅したと主張する。

しかし、債権者らの責に帰すべき事由により臨時免許状が失効したのであればともかく、有効期間満了にあたり債務者が関係証明書の作成を拒否して債権者らに対し臨時免許状を取得する方法を封じたのであり、且つ、前述のとおり右協力を拒否する合理的な理由を認めがたい本件の場合は、期間満了による免許状の失効を理由に当然雇傭関係まで消滅すると解することは信義則に反する結果となる。

また、債務者の協力があれば臨時免許状を再取得する可能性がある以上、雇傭契約上の債権債務が確定的に履行不能となったとはいいきれない。

結局、債務者学園と債権者らの間の雇傭契約は免許状再取得が事実上、法律上困難となるまでは継続していると解するほかない。もっとも、臨時免許状が失効した以上教員資格は喪失したと解さざるを得ない。

(なお、最判昭和三九年三月三日第三小法廷判決は公立学校の助教諭が教育職員検定に不合格となったのち、免許状が失効した事案であるから本件にはそのまま妥当しないと考える。)

七  よって、債権者らの本件申請第一項は失当としてこれを却下し、第二項につき被保全権利の疎明程度、保全の必要性を勘案し、債権者各自につき昭和五七年四月以降第一審の本案判決言渡しに至るまで毎月二〇日限り月額八万円の割合による金員の支払いを仮に求める限度でこれを認容し主文のとおり決定する。

(裁判官 米田絹代)

<以下省略>

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